メッセージ 「原題:The Arrival」感想 静かで切ない秀作SF
2017年公開の「メッセージ」。第89回アカデミー賞で監督賞、作品賞含む8つの部門でノミネートされ、そのうち音響編集賞を受賞している作品です。
Netflixで一度鑑賞したのですが、なんと家の近くの映画館で1週間限定で劇場公開をしていたので映画館で再鑑賞しました!
本作は、突如世界各地に飛来した宇宙船に世界中が混乱する中、地球に来た目的を聞き出すために主人公の女性の言語学者が、宇宙人とのコミュニケーションを試みるという作品。
静かな映像と音楽に包まれながら進んでいく物語の中で深い感動を得られる、美しく、すばらしいSF映画です。
「メッセージ」の作品情報
タイトル:「メッセージ」
原題:「The Arrival」
おススメ度:★★★★★★☆☆☆☆6/10
個人的な評価:★★★★★★★★★★10/10
公開年:2016年
上映時間:116分
製作国:アメリカ
監督:ドゥニ・ヴィルヌーブ
製作:ショーン・レビ ダン・レビン アーロン・ライダー デビッド・リンド
製作総指揮:スタン・ブロドコウスキー エリック・ハイセラー ダン・コーエン カレン・ランダー トーリー・メッツガー ミラン・ポペルカ
音楽:ヨハン・ヨハンソン
「メッセージ」のキャスト
ルイーズ・バンクス:エイミー・アダムス
本作の主役となる言語学者。大学で教鞭をとっていたが、突如やってきた宇宙人とのとのコミュニケーションを任せられる。
イアン・ドネリー:ジェレミー・レナー
数学者。ルイーズと協力しながら、宇宙人との対話を目指す。
ウェバー大佐:フォレスト・ウィテカー
宇宙人の対策を任せられている軍人。宇宙人による地球侵略に危機感を持っており、時折ルイーズらと衝突する。
本作の主人公、ルイーズを演じるエイミー・アダムスはディズニー作品の「魔法にかけられて」や、「ナイトミュージアム」、DCコミックスシリーズの「マン・オブ・スティール」などの有名作に出演している人気女優さんです。
ジェレミー・レナーは皆さんご存じ、マーベルシリーズに登場するホークアイ役で有名ですね。実は彼の出演する作品は良いものが多く、彼の出ているサスペンス映画「ウィンドリバー」はおススメですよ!
「メッセージ」のあらすじ
巨大な球体型宇宙船が、突如地球に降り立つ。世界中が不安と混乱に包まれる中、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)は宇宙船に乗ってきた者たちの言語を解読するよう軍から依頼される。彼らが使う文字を懸命に読み解いていくと、彼女は時間をさかのぼるような不思議な感覚に陥る。やがて言語をめぐるさまざまな謎が解け、彼らが地球を訪れた思いも寄らない理由と、人類に向けられたメッセージが判明し……。
(YAHOO! JAPAN映画より引用)
「メッセージ」のネタバレ無し感想
他のSF映画とは一線を画す秀作。哲学ともとれる物語の先に、私たちに深い余韻を残してくれる、美しい映画でした。
本作の監督であるドゥニ・ヴィルヌーブはとても美しい映像を取る方で、すべてのシーンが額縁に飾りたくなるようなものになっています。また、音楽を担当したアイスランドの作曲家ヨハン・ヨハンソンによる楽曲も素晴らしく、切ないストーリーや、未知との遭遇、宇宙船の巨大さを効果的に演出しています。
この映画の主軸は、飛来してきた宇宙人の目的を聞き出すために、言語学者の主人公ルイーズと数学者のイアンが彼らとコミュニケーションをとるというものです。
そもそも、我々の知っている言語からかけ離れたものでコミュニケーションを取ってくる宇宙人に対し、どうアプローチするのか。この過程がかなり論理的に描かれており、徐々に相手の言語を理解していく様子は見ていてとても面白かったです。
また、宇宙人の飛来を脅威と感じている各国のリーダー達によって刻一刻と変わっていく国際情勢が、ストーリーに緊張感をもたらしてくれています。実際、宇宙人の目的は終盤までわからないので、本作の登場人物が抱える不安感などを私たちも共有でき、深い没入感を味わうことができます。
そして、本作は主人公であるルイーズ自身の物語でもあります。
少し小難しい話になりますが、「サピア=ウォーフ仮説」ってご存じですか?
僕は知りませんでした…w
この仮説は簡単に言うと、「人は言語を通して思考を行うので、異なる言語を用いると認識する世界自体が変わっていく」という考え方です。(あくまで私の解釈なので間違ってるかも…)
例えば「肩こり」について考えてみます。これって、肩が痛い状況を指しますよね。しかし、アメリカ人には肩こりに該当する言葉がありません。なので、彼らには肩こりという概念そのものがなく、首がこる、痛いという風に認識しています。
つまり、言語が違うと見える世界自体が変わってくるのです。
と、偉そうに言ってますが私もあまり理解できていないので、ご存じの方がいたらどなたか教えてください…。
話を戻しますと、本作にはこの考え方が反映されており、宇宙人の言語を理解していくにつれ、ルイーズが見る世界が徐々に変わっていきます。
この結果、彼女は宇宙人の言語の持つ力、そして自分自身について衝撃の事実を知ることになるのです。
この事実が、本当に切ない……。
私はこれが分かるシーンで号泣してしまいました……。
ただ、この事実が判明するまでの構成が巧みで、とても引き込まれる作りになっています。
また、この結末には私たちの人生にとって、とても大事なメッセージが込められていると私は感じましたし、とても考えさせられる作品でした。(これについてはネタバレ有りの感想で書いています)
本作はストーリーとしても演出としても、とてもクオリティの高いものになっており、個人的には今まで見てきたSF映画の中でもトップクラスにお気に入りの作品です。
ここからは、ネタバレ有りの感想になります!
「メッセージ」のネタバレ有り感想
1.巧みな構成がもたらす、切ない結末
この作品は冒頭、ルイーズが娘(ハンナ)と生活をしているシーンから始まります。夫は出て行ってしまっているようなのですが、ハンナが小さいときは二人で遊んだり、反抗期に入ったら「大っ嫌い!」って言われたり、よくある親子の場面が流れます。
しかし、そのハンナは病に倒れ、若くして亡くなってしまうのです。
そして、悲嘆に暮れるルイーズが映し出された後、宇宙人とのストーリーが始まっていきます。
この段階では、このハンナの死は、宇宙人の飛来より前に起きた事、つまり、過去の出来事だと私は思っていました。
物語が進み、ルイーズが宇宙人の言語について理解していくと、このハンナとの記憶が彼女の脳裏によぎるようになります。
しかし、ここで彼女は、「ん?何だこれ?どういうこと?」という反応を見せます。
これが謎だったんですが、最後には「あ、そういうことなんだ…」ってなりました。
宇宙人の言語には時制が無いことが途中で明らかになるんですが、これはつまり、彼らは「過去も現在も未来も区別されず、同時に存在している」と認識していることを表しています。
簡単に言ってしまえば、未来が予知できるってことです。
そして、さっき書いた「サピア=ウォーフ仮説」をこれに当てはめると、彼らの言語を理解すれば、この宇宙人のような認識をできるようになり、未来予知が可能になるのです。
これで何となく分かりましたよね…。
つまりルイーズは宇宙人の言語を理解していく事で、未来を見ることができるようになっていたのです。
だから、現時点で結婚もしてないし子供も居ないルイーズは釈然としない反応を見せていたんですね。
そして、記憶の中のハンナは将来ルイーズが授かる子供であり、若くして命を落としてしまう事を、彼女は知ってしまいます。
さらに、結婚相手の夫は数学者のイアンであり、未来が見える彼女は「将来、私たちのハンナは若いうちに亡くなってしまう」ことを彼に伝え、それがきっかけでイアンは出ていってしまう事も予知してしまいます。
これって、絶望的な未来ですよね…。
そこで、彼女はイアンに「この先の人生が見えたら、選択を変える?」と尋ねます。
するとイアンは「自分の気持ちをもっと相手に伝えるかも」と言います。
つまり、これは未来に関わらず相手との時間を大事にする、という事なのかなと、私は解釈しました。
そして、彼女はこの未来を受け入れ、イアンと結婚し、子供を産むことを決意するのです。
この辛すぎるが美しいエンディングはもう号泣必至。
すぐ感動して泣いてしまう私は大変なことになりました…。
でも、この話って私たちにもあてはまる話だと思うんです。
生きている以上、私たちにもいつかは死が訪れます。そのタイミングは誰にもわからないし、もし大事な人がいるなら、その人との別れがいつか来ることは必然なのです。
つまり、いつかは悲しい未来が訪れる事実を、ルイーズと同じように私たちも実は認識しているんですよね。
だから、私も大事な人と一緒にいれる幸せを感じ、その一瞬一瞬を大切に生きていたいなという風に感じました。
2.相手を理解したいなら、「急がば回れ」が大事
本作は、宇宙人に対し「What is your purpose on Earth?(地球での目的は何?)」の質問をなげかけ、これに答えてもらうことが目的となっています。
そこで、ルイーズは宇宙人とコミュニケーションを取るために、まず「Human(人間)」や「Walk(歩く)」といった、質問とは直接関係のない簡単な単語を宇宙人に教えていきます。質問をする前に、まずはこちらの言語を理解してもらおうとしているのですね。
そして、これをじれったく思ったウェバー大佐はルイーズに「読み書きから教えるなんて時間がかかりすぎる」と突っかかります。これに対し、ルイーズは「急がば回れよ」と答え、大佐にアボリジニの逸話を話します。
この逸話とは、1770年、クック船長一団がオーストラリアのアボリジニに出会った際の話です。
ある船員が子供を袋に入れて飛び跳ねる動物を見て「あの生き物はなんだ」とアボリジニに聞きます。するとアボリジニは「カンガルー」と答えたんですね。
これが、今カンガルーと呼ばれている動物の名前の由来となるんですが、
実は「カンガルー」とは原住民の言葉で「理解できない」という意味の単語だったのです。
つまり、会話が成り立っていても、お互いの理解が十分でなければ、ちゃんとしたコミュニケーションは取れないという話なんですね。
まぁ、この話はあくまで逸話なんで、本当の話かどうかは分かりませんが、とても興味深い内容でしたね。
私たちは実生活の中において、基本的には相手と同じ言語を使ってコミュニケーションを取っていますよね。だから、会話自体は容易に成り立っています。しかし、相手のその発言について、十分に理解してる事って意外と無いんじゃないかなと思うんです。
言ってしまえば、「分かった気になってる」ってことです。
生まれも育ちも違い、物事の感じ方や考え方も人それぞれなのに、相手の事をそんな簡単に理解できるわけは無いですよね。
というか、本当は理解なんて出来ないのかもしれない。
でも、家族でも恋人でも、誰か大事な人が出来て、その人と一緒に居たいと思うなら、理解をする努力は怠ってはいけないですよね。
そして、そのためには長い時間をかけて会話や交流を続けていく事が大事なのかなと、この作品によって再認識させられました。
まとめ
いかがだったでしょうか?
本作は少し難解なストーリーかつ、とても静かに話が進んでいく、他にはあまり無い雰囲気の作品になっています。この点で、観る人を選ぶ作品でもあると思いますが、鑑賞後には深い感動と共にこれからの人生や人付き合いにおいての大きなヒントをくれる作品です。
映像や音楽が非常に素晴らしいので、是非映画館で観てほしいのですが、過去作品の為、次いつ上映されるかがわからないところが残念です。
ですが、NetflixやAmazon primeなどサブスクでも配信されているので、是非見てみてください!
それでは、読んでくださりありがとうございました!