ちきの映画日記

映画を見て、個人的に魅力的だと感じた点を拙い文章で紹介します。

タクシードライバー 感想 「原題:Taxi Driver」狂気の男を通して感じる、ベトナム戦争後のアメリカ

1976年公開の「タクシードライバー」。カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しており、今もなお、映画好きの中で名作と語り継がれています。

ただ、見る人にとっては駄作とも言われ、賛否両論分かれる作品でも知られていますね。

私自身も最初観たときは「???どういうこと???」とハテナがたくさん浮かんでしまいましたが、当時のアメリカの背景などについて理解すると、かなり見え方が変わりました。

本作はタクシードライバーとして働く元海兵隊不眠症の男が、自身の孤独や社会の現状に対するフラストレーションから暴走していく様子を描いた作品。

ロバート・デ・ニーロの名演技によって生み出される緊張感は格別。見終わった後には不思議な余韻を残す映画でした。


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タクシードライバー」の作品情報

タイトル:「タクシードライバー

原題:「Taxi Driver」

おススメ度:★★★★★☆☆☆☆☆5/10

個人的な評価:★★★★★★★☆☆☆7/10

公開年:1976年

上映時間:114分

製作国:アメリ

監督:マーティン・スコセッシ

製作:マイケル・フィリップス ジュリア・フィリップス

脚本:ポール・シュレイダー

 

監督のマーティン・スコセッシは言わずと知れた超大物監督です。「グッドフェローズ」や「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、「キングオブコメディ」など数々の名作を世に送り出しています。

タクシードライバー」のキャスト

トラヴィス・ビックルロバート・デ・ニーロ

 ベトナム戦争から帰還した元海兵の男。不眠症を患いながら、タクシードライバーとして働く。

ベッツィー:シビル・シェパード

 トラヴィスが好意を持つ、次期大統領候補の議員の選挙事務所で働く女性。

アイリス:ジョディ・フォスター

 売春をしている12歳の少女。

 

今から、45年前の作品ということで、ロバート・デ・ニーロもまだ33歳で若い!ベッツィー役のシビル・シェパードもとても綺麗な女優さんでした。

驚きなのはアイリス役のジョディ・フォスター。12歳で売春婦の役をやるなんて今では絶対に考えられないですよね…。彼女は本作でアカデミー助演女優賞にノミネートされ、後に「羊たちの沈黙」などの作品に出演しています。

タクシードライバー」のあらすじ

ベトナム帰りの青年トラヴィス・ビックルは夜の街をタクシーで流しながら、世界の不浄さに苛立ちを感じていた。大統領候補の選挙事務所に勤めるベッツィと親しくなるトラヴィスだったが、彼女をポルノ映画館に誘ったことで絶交されてしまう。やがて、闇ルートから銃を手に入れたトラヴィスは自己鍛錬を始めるが、そんな彼の胸中にひとつの計画が沸き上がる……。

(allcinemaより引用)

タクシードライバー」のネタバレ無し感想

フラストレーションがいつ爆発するのか分からない緊張感。狂気に満ちた語り手によって伝えられる荒んだアメリカの姿から、色々と考えさせられる作品。

 

この作品は当時のアメリカの背景とベトナム戦争について知っていると、より理解が深まる作品になっています。

なので、まずはこれについて簡単に説明させていただきますね。

 

ベトナム戦争とは1955年から1975年の間で起きた、ベトナムを南北で分裂して起きた戦争です。北は共産主義国であるソ連や中国が、南は反共産主義国であるアメリカや韓国などの国が支援していました。

戦争のきっかけは、北の共産主義勢力が南の反共産主義勢力にゲリラ戦争を起こした事です。

そして、反共産主義アメリカなどの国々はインドシナ共産主義が広がってしまう事を懸念してこの戦争に参加していました。実態としては、ほぼほぼアメリカとソ連の代理戦争だったようです。

結局この戦争は泥沼化して、ベトナム人にもアメリカ人にも甚大な犠牲者を生み出してしまいます。

これによって、アメリカ国民の中でも戦争に対する反感が増えていきます。

また、この戦争には明確な”悪”が存在しなかったため、国民が「この戦争に大義はあるのか、正しいことなのか?」という疑問を持つことにも繋がったのです。

しかも、最終的にアメリカは、この世論の反対と物資の枯渇によって撤退を余儀なくされ、ベトナム戦争終結します。

だから、アメリカ人にとってこの戦争は恥となってしまったのです。(戦争を起こしてしまう事自体が恥なような気もしますが…)

 

こんな状況でアメリカに帰還した兵士の苦悩は想像を絶します。

大義のない戦争で自分たちは何のために闘ってきたのか、仲間の犠牲は何だったのか。

戦地に長くさらされ、心に傷を負っている彼らは、社会に溶け込むことが出来ず、孤立してしまいます。それが原因で自殺や、暴行事件を起こしてしまう兵士も居たようです。

そんな彼らを世間はより遠ざけるようになるのです。

 

この作品はこのような背景がある中で製作されています。

では、感想の方に戻りますね。

 

 

タクシードライバーとして働く、ベトナム戦争からの帰還兵で不眠症の男の狂気を淡々と描く本作。

この作品の見どころはやはり、ロバート・デ・ニーロの狂気じみた演技だと思います。

表向きは冷静だが、世の中に対し大きな不満を持ち、常に爆発の一歩手前のような緊張感のあるラヴィスを完璧に表現していますデ・ニーロはこの作品の為に、本当にタクシードライバーとして働いていたくらいプロ意識の高い俳優ですから、本作でも凄まじい演技に仕上がっています。

また、ベトナム戦争の背景について知っていると、ラヴィスが感じる孤独や世の中に対する不満にかなり共感できると思います。ニューヨークの街中は売春婦や差別主義者、ドラッグなど無法地帯になっていて、「自分が命を懸けて戦ってきた結果がこれなのか?」と。

だからこそ、彼が最後にもたらす結末に対してもかなり考えさせられます。

 

ここまで物語の内容について話してきましたが、演出も素晴らしかったです。

カット割りもラヴィスの心境を的確に表しており、彼には世界がどのように見えているのか感じることができます。

また、楽曲も素晴らしいです。

バーナード・ハーマンという方が楽曲制作をしているのですが、ジャズやポップスなど色々な要素があり、とてもおしゃれでした。ラヴィスの狂気を演出するために緊張感のある不穏な音楽にするのではなく、あえて少し印象の違うものにしたことで、逆に彼の不安定さを表現しているのかなぁと、私は感じましたね。

ここからはネタバレ有りの感想です!

 

 

 

 

 

タクシードライバー」のネタバレ有り感想

1.トラヴィスは信用できる語り手なのか

私がこの作品を知ったきっかけは、トッド・フィリップス監督の「ジョーカー」です。この作品は私の人生の中でもトップクラスに好きな映画なんですが、これに「タクシードライバー」のオマージュがあるということで、本作を鑑賞しようと思いました。

そして、この「ジョーカー」は、精神疾患を抱え妄想癖のある信用できない語り手によって語られる悲劇の物語であり、ストーリーそのものが全て主人公の妄想であった、とも捉えられる作品でした。

本作でもラヴィス不眠症を患っているという設定です。不眠症というと私はクリスチャン・ベール主演の「マシニスト」のイメージをもっているので、不眠症が引き起こす幻覚などによって、ラヴィスはありもしない現実を見ているのではないかという先入観がありました…。

実際、ラヴィスベッツィーと一瞬仲良くなる展開は、「え、そんなことある?」と思いました。

まあ、何か互いに通づるものがあったという事もあるとは思いますが、美人で選挙事務局で働いている女性が、ただ外から見つめてくるだけのタクシードライバーに惹かれる事ってあるんですかね…。

その後町の浄化に目覚め、次期大統領候補を暗殺しようとしたり、アイリスの雇い主たちを殺害する展開もあまりに突然で、少し違和感を感じました。

なのでこれらは、社会の中で透明人間のように生きているラヴィスが自分の存在を知ってもらいたい、世の中を変えたい、と思うが故の妄想なのかなと考えたんですね。

ただ、アイリス絡みの殺人を起こした時の銃弾による首の傷はラストシーンでも残っていましたし、そもそも妄想ならベッツィーと上手くいかない展開にはしないか、と思ったので恐らく現実の話だと思いました。

皆さんはどう思いましたか?

 

2.殺人を英雄化する恐ろしさ

本作では最後、ギャングたちを殺害し、12歳の娼婦であったアイリスを家族のもとに返したラヴィスは新聞で英雄ともてはやされます。

そして、これによってベッツィーにも再び意識され始めるという、形としてはハッピーエンドとなり本作は幕を閉じます(ラヴィスベッツィーに興味は無さそうでしたが)。

 

しかし、これって恐ろしいですよね。

アイリスが家族のもとに帰れたことは良かったと思いますが、殺人を犯していることには変わりません。

しかも、子供の前で。

かつ、急に銃を持ってアイリスの元に現れるなんて、彼女からしたらめちゃくちゃ怖くないですか?

まだ彼女は子供でしたし、目の前で人を殺そうとするラヴィスに向かって「撃たないで!」と叫んでいました。

その後の反応を見ても震えながら泣いているだけで、彼女に大きな傷を残したのは間違いないと思いましたね。

 

しかも、今回はたまたま殺した相手がギャングでしたけど、その前は次期大統領候補をターゲットにしていました。

恐らく、そのまま次期大統領候補を殺していたら世間の評価は真逆でしたよね。

 

これらの事からもラヴィスが正気ではないのは確かです。

しかし、それを知らない世間は彼の事を英雄化してしまった。

しかも、最後にはどこか満足げな彼の姿が映し出されるのは、また同じことをするのかもと想起させました。

 

これは、戦争を正当化する事に対する皮肉なのかなと感じました。

結果的に良いものになったとしても、その過程で人が死んでいる事を考えると、とても褒められたことではないと思います。

ベトナム戦争によって人々が犠牲になることの悲惨さを目の当たりにしたのに、殺人による今回の一件を称賛してしまう世間は、私の眼にはとても恐ろしく映りました。

 

誰かの犠牲無しに理想の結果がもたらせれば良いんですが、中々それを実現するのは難しいんでしょうね…。

 

まとめ

本作はとても古い作品で演出なども今とはかなり違いますし、扱うテーマも当時の情勢を反映しているので、今の人が観るには少しハードルが高いかなと思います。

ただ、名優ロバート・デ・ニーロによる演技は本当に凄まじいです。それだけでも観る価値があると私は思います。

また、戦争や正義という大きなテーマについて考えるきっかけを与えてくれる作品でもありますので、是非当時の背景知識を少し入れた上で鑑賞してみてください!

 

それでは、読んでくださりありがとうございました!