ちきの映画日記

映画を見て、個人的に魅力的だと感じた点を拙い文章で紹介します。

アンテベラム 感想 「原題:ANTEBELLUM」 地獄とエンタメの共演

今回、「ゲット・アウト」や「アス」のプロデューサー制作の新作スリラー映画「アンテベラム」を鑑賞しました。

ほぼ前情報なしで観ましたが、これは凄い作品でしたね…。

もし、鑑賞する気があるのであれば、予告編もこのブログも見ず、今すぐ観に行ったほうが良いです!

何も知らずに観ると、衝撃度150%位になりますw

本作は南北戦争時代の黒人奴隷制をテーマに過去と現在を描くスリラー作品。

地獄のような差別描写で黒人差別に対する強い怒りを示しながらも、中盤以降の展開では観る者に大きくエンタメ性を感じさせる、傑作ホラーでした!

 

一応予告編貼っておきますが、未鑑賞の方は観ないほうが良いと思います…。


www.youtube.com

 

「アンテベラム」の基本情報

タイトル:「アンテベラム」

原題:「ANTEBELLUM」

おススメ度:★★★★★★★★☆☆8/10

個人的な評価:★★★★★★★★☆☆8/10

公開年:2021年

上映時間:106分

製作国:アメリ

監督:ジェラルド・ブッシュ  クリストファー・レンツ

製作:レイモンド・マンスフィールド  ショーン・マッキトリック  ゼブ・フォアマン  ジェラルド・ブッシュ  クリストファー・レンツ

製作総指揮:アレックス・G・スコット  ケニー・マック  エドワード・H・ハム・Jr.

 

「アンテベラム」のキャスト

ヴェロニカ・ヘンリー/エデン:ジャネール・モネイ

 ヴェロニカは現代の人物で、社会学の権威として地位を得ている黒人女性。夫と子供がおり幸せに生活している。

 エデンは南北戦争時代の黒人女性。「彼」の元で奴隷にされている。


彼:エリック・ラング

 本作に登場する綿花農場の最高権力者。エデンを奴隷にしている。

 

エリザベス:ジェナ・マローン

 綿花農場に滞在している身分の高い白人女性。

 

ジャスパー:ジャック・ヒューストン

 綿花農場で黒人奴隷の管理を任せられている司令官。

 

「アンテベラム」のあらすじ

人気作家でもあるヴェロニカは、博士号を持つ社会学者としての顔も持ち、やさしい夫と幼い娘と幸せな毎日を送っていた。しかし、ある日、ニューオーリンズでの講演会を成功させ、友人たちとのディナーを楽しんだ直後、彼女の輝かしい日常は、矛盾をはらんだ悪夢の世界へと反転する。一方、アメリカ南部の広大なプランテーションの綿花畑で過酷な重労働を強いられている女性エデンは、ある悲劇をきっかけに仲間とともに脱走計画を実行するが……。

(映画.comより引用)

 

「アンテベラム」のネタバレ無しの感想

この展開は絶対に読めない!容赦ない差別描写と衝撃の事実に戦慄する傑作ホラー!

 

いやぁ、サプライズスリラーとは正にこういう事ですね。

この映画の中盤以降の展開を読める人なんて正直一人もいないと思いますw

話自体はかなり重い内容なんですが、映画の作り自体はかなりエンタメ。

序盤、中盤ではあまりはっきりしないストーリーが終盤で急展開を迎え、観る者に「あ、なるほど!」という爽快感を与えてくれます。

分かりやすく伏線を回収してくれるので、めちゃくちゃ気持ち良かったです。

また、記憶を無くしてもう一回見たい…。

 

そして、この映画の魅力は何といっても容赦ない差別描写だと思います。

 

アンテベラムANTEBELLUM」という単語は、南北戦争以前という意味を持っています。

本作はこの名のとおり南北戦争における黒人奴隷差別について描いた作品でした。

 

南北戦争とはアメリカで起きた内戦で、発展した北部と、黒人奴隷を使って農業をしていた南部の間で勃発したもの。

この時、南部において黒人奴隷は綿花の栽培、収穫に使われており、その扱いはかなりひどいものであったようです。

本作はその奴隷に対する白人の仕打ちをはっきりと描いていました。

観ているとかなり辟易するような描写もありますが、それがあるからこそ、過去から現在まで続く差別問題について強く意識することができると思いました。

メッセージ性のある作品としても良作でしたね。

 

あまり言うとネタバレに繋がるので今回は最小限の情報にとどめようと思います…。

 

ここからはネタバレ有りの感想になります!

 

 

 

 

 

 

「アンテベラム」のネタバレ有りの感想

1.残酷な差別描写が描く地獄

 

本作冒頭は長回しのシーンから始まります。

 

映し出されるのは、

綺麗な建物や貴族風の女性、その娘

銃を持った兵隊

召使として洗濯物を干す黒人女性

簡素な小屋

そして兵士に対し激しく抵抗する黒人男性とその妻

 

その後妻は走り出して逃走するが、白人たちは馬に乗って追跡。

ある程度泳がした末に、縄をかけて捕獲し、「殺せ」という妻に対し、容赦なく引き金を引いて殺害します。

しかも、その死体に縄をつけたまま馬で引きずり、そのシーンをバッグにタイトルの「アンテベラム」が映し出されます。

 

もうこの時点で、「あ、しんどい映画だ」って思いましたね。

 

重厚で暗い音楽が流れる中、黒人をゴミのように扱う白人の様子は本当に恐ろしく、強い憤りを覚えました。

 

その後も、ひたすら黒人が虐げられている様子が映し出され続けます。

 

名前を言わないエデンという女性を殴り、熱した鉄を押し付けて焼き印を押す将校。

綿花をつんでいる最中に勝手にしゃべった男性を銃で殴りつける兵士。

最初は紳士的に見えた兵士も、黒人女性が勝手に喋ったことに腹を立て、急に人が変わったように彼女に暴力を振るう。

しかも、この女性は妊娠しており、兵士に腹を蹴られたことによって子供を死産してしまいます。

 

この様な無抵抗な黒人に対し暴力を振り続ける様子には辟易しました。

 

中盤、話が南北戦争から現代に移った後でも、陰湿な差別描写は続きました。

 

主人公に対し「あなたのリップ、凄い良いわね。その肌の色にピッタリだわ。」と蔑んだような言い方をする女性記者。

黒人にだけ冷たい対応をするホテルのフロント。

黒人が予約したということで、部屋の隅の小さな机に案内するレストランの従業員。

 

昔ほど過激ではないものの、とても陰湿な差別が現代でも続いているというのは、結局、人間は何も変わっていないことを表現しているかのようでした。

 

 

2.後半におけるカタルシス、そしてこれからについて

 

衝撃の事実が明かされる後半。

ここからは、怒涛の展開と大きなカタルシスが待っていました。

 

序盤は南北戦争時代の主人公が描かれており、彼女が小屋で眠りにつくと、現代の話に突入するという流れになっています。

現代では社会学者として高い地位を得ている主人公。

夫と子供もおり幸せな生活を過ごしています。

しかし映画後半、現代の主人公は友人との食事を終えた後、謎の女性と男性に拉致されてしまいます。

そして、ここで登場したのが、南北戦争時代の将校と貴族の女性。

 

「ん、どういうことだ?」となる展開なんですが、問題はこの後。

 

主人公が目を覚ますと南北戦争時代に。

これは序盤から中盤へとつながるシーンの続きになっており、「現代の出来事は彼女の夢の中で起きたことなのか?」という予想をさせます。

 

しかし、この後が衝撃。

主人公を奴隷にしている将校はなんとスマートフォンを持っているのです!

 

そして綿花を収穫している場面では、空に飛行機が!

 

そう、この南北戦争時代の差別描写は現代における出来事だったのです。

意味わからないですよね。

 

簡単に言うと、黒人を激しく差別している白人団体が、黒人を拉致し南北戦争時代を模したテーマパークに連れてきて、当時の差別を実際に行っている、という事でした。

 

設定としてはめちゃくちゃなんですが、あまりに予想外な展開すぎて細かいことはどうでもよくなりますw

 

これ以降は主人公がこのテーマパークから逃げ出すために、奮闘する姿が描かれます。

そして、意外と簡単に抜け出せちゃいますw

 

ただその過程で、差別を行ってきた白人を火あぶりにしたり、馬に括り付けて引きずり回したり、徹底的にやり返すので、観ていて気持ち良かったです(あまりいいことではないですが)。

しかし、殺された白人のうちの一人は死ぬ直前に「これで終わりじゃない」と言います。

 

これは、このような思想を持っている人はまだいる。

差別を無くすには、そのような人々と立ち向かい続けなければいけないということを示唆していると思いました。

本作のメッセージとしてはここが一番重要なところだったのかなと思いました。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

 

本作はとにかく話の展開が巧みで、後半の展開には衝撃を受けること間違いなしのサプライズスリラーでした。

また、容赦のない差別描写を通して、過去から現在まで続く黒人差別についての強いメッセージを感じることができ、社会派の映画としても良作でした。

 

それでは読んでくださりありがとうございました!