キャンディマン(2021年) 感想 「原題:CANDYMAN」 完璧にしてパワーアップした続編!
今年の秋は怒濤のホラーラッシュで、魅力的な作品が数多く上映されていますが、今回は「キャンディマン」を鑑賞しに行きました。
1992年の同名作品の精神的続編ということで世間で少し噂になってましたね。
しかも、今回は話題の「ゲットアウト」や「アス」などのメッセージ性の強いホラー作品を生み出してきた、ジョーダン・ピールが製作に関わっているということで、個人的に超期待していました!
本作は、画家の黒人男性が、作品の題材としたキャンディマンの都市伝説を追っていくにつれ、徐々に闇の世界へと引きずり込まれていく様を描いた作品。
オリジナル作品の流れをしっかり汲みつつ、昨今の黒人差別問題に深く切り込んだ、完璧な続編にして傑作ホラーでした!
「キャンディマン」の基本情報
タイトル:「キャンディマン」
原題:「CANDYMAN」
おススメ度:★★★★★★★☆☆☆7/10
個人的な評価:★★★★★★★★★☆9/10
公開年:2021年
上映時間:91分
製作国:アメリカ
監督:ニア・ダコスタ
製作:イアン・クーパー ウィン・ローゼンフェルド ジョーダン・ピール
製作総指揮:デビッド・カーン アーロン・L・ギルバート ジェイソン・クロス
監督のニア・ダコスタは黒人の女性監督であり、現在制作中のマーベルシリーズの「キャプテン・マーベル」続編でも監督を務めている、今注目の監督です。
そして、なんといっても製作のジョーダン・ピール!
「ゲット・アウト」を初めて見た時の衝撃は凄まじかった…
彼の作る作品は「アス」も含めて、メッセージ性が強く、独特でスタイリッシュなイメージがあり、私は大好物です。
今回も彼が製作陣に名を連ねているという事で観に行きました。
「キャンディマン」のキャスト
画家。自分の住んでいる地域にまつわる都市伝説キャンディマンを題材にした作品を製作するためにキャンディマンを追う。
ブリアンナ・カートライト:テヨナ・パリス
アンソニーの恋人。ギャラリーに勤めており、アンソニーのアーティスト活動のサポートをしている。
ウィリアム・バーク:コールマン・ドミンゴ
コインランドリーの主人。昔からカブリーニグリーンに住んでおり、キャンディマンを知っている。
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世はDCコミックのヒーロー「アクアマン」でブラックマンタ役で出ていました。また、12月に上映する「マトリックス:リザレクション」にも、あのモーフィアス役で出演しており、今注目の俳優さんです!
「キャンディマン」のあらすじ
シカゴの公営住宅“カブリーニ・グリーン”地区には、鏡に向かってキャンディマンと5回唱えると、右手に大きなフックが付いた殺人鬼が現れ殺されるという不気味な都市伝説が語り継がれていた。都市開発によって今や高級住宅地となったカブリーニ・グリーンに引っ越してきたヴィジュアル・アーティストのアンソニーは、町の都市伝説に興味を持ち、キャンディマンの謎を追い始める。そして、公営住宅に住んでいたという老人から、キャンディマンにまつわる驚きの物語を聞かされるのだったが…。
(allcinemaから引用)
「キャンディマン」のネタバレ無し感想
キャンディマンによる恐怖を演出する素晴らしいシーンの数々!黒人差別に対する怒りをキャンディマンとして具現化させた、超傑作!
「鏡の前で5回その名を呼ぶと殺しに来る」というキャンディマンの都市伝説がテーマの今作。
1992年の同名作品の続編ですが、個人的にはそのオリジナル作品を上回るクオリティの映画になっていたと思います!
まず、鏡から現れると言われるキャンディマンの恐怖を超効果的に演出するシーンがたくさん!
ワッ!と驚かすようなシーンは少ないですが、鏡にしか映らないキャンディマンの不気味さを十二分に感じることが出来ました。
また、主人公のアンソニーがキャンディマンの都市伝説によって徐々に狂っていく様もかなり恐ろしいものに仕上がっています…。
本当に鳥肌が立つようなシーンもありますから、観るときは心してください…。
そして、やはりジョーダン・ピールが関わっているということで、黒人差別に関するかなり強いメッセージが込められています。
カルト的な人気を誇るキャンディマンの続編として、この題材をうまく昇華するのはかなりハードルが高かったと思いますが、そこを見事にやってのけたのは、流石と言うところですね…。
本作は続編ではありますが、過去作を観なくても楽しめるとは思います。
ただ、過去作を観ていたほうがより楽しめるのは確かです。
特に1992年のオリジナルの「キャンディマン」はチェックしておいて損はしないかなと思います(ただ、サブスクにおいては、現在アマプラのレンタルでしか観られません)。
この1992年版についても感想を書いているので、気になった人はチェックしてみてください!
ここからはネタバレ有りの感想です!
「キャンディマン」のネタバレ有り感想
1.鏡を使った演出が巧みすぎる!
キャンディマンは鏡の前で5回その名を呼ぶことで姿を現し、人を殺すと言われています。
この、「鏡」を利用した演出が本当に素晴らしかった!
まず、映画開始前、ユニバーサルなどの複数の製作企業ロゴが登場しますが、これが全部鏡文字になっていました!
こういうちょっとしたオマージュが私は大好きなので、もう興奮が止まりませんでしたねw
そして、タイトルロゴ、キャストや製作スタッフが表示されるんですが、そのバッグは曇天の中のビル群を逆さまにとった映像がずっと流れていました。
ちょっと酔いそうな絵面でしたが、これから起こる不気味で奇妙な物語を示唆しているようで、ワクワクしました…。
実際にストーリーが始まってからも、この鏡を使った演出は光ります。
キャンディマンは基本的に鏡の中にしか写らず、現実世界には現れません。
なので、鏡の中でキャンディマンが布を切っても、現実世界では勝手に布が切れるだけ。
現実世界には何も居ないのに、見えない何かによって次々と人々が惨殺されていく。
このような演出が随所にされており、現実世界で太刀打ちが出来ない彼の恐ろしさを巧みに表現していました。
また、本人たちは気づいていないが、鏡にキャンディマンが立っているのが写っているシーンなどは、ホラー映画にありがちな「映り込みの美学」を感じさせるものでしたね。
2.1992年版「キャンディマン」から繋がる衝撃の事実
本作は1992年版の精神的続編ということで、過去作品に登場する人物も物語に関わっており、かなりしっかりとした作品同士の繋がりを持っていました。
まず、映画の序盤で1992年版の主人公ヘレンにまつわる都市伝説が話されます。
「ヘレンは大学院の学生でキャンディマンを題材にした論文を書こうとしていた。しかし、キャンディマンを追っていくうちに気が狂っていき、カブリーニグリーンに住んでいるシングルマザーの家に行き、その家の番犬を首チョンパ。その後、その家の一人息子を攫っていく。そして、複数の人物を殺害した後、カブリーニグリーンでかがり火の中にさらった子供を入れて、キャンディマンの生贄にしようとした。しかし、カブリーニグリーンの住人がヘレンから子供を取り上げ、彼女は一人、かがり火の中で死んだ。」
というものです。
内容としてはほとんど1992年版の内容と一致しており、過去作の正当な続編というのがうなずけます。
そして、衝撃的なのが主人公アンソニーについてです。
蜂に刺された怪我がひどくなり病院を訪れた時、看護師から彼がカブリーニグリーン出身であることを知らされます。
しかし、彼は自分の出身地は別の地域であると母親から伝えられており、混乱してしまいます。
そして、自分の出自について知るために、直接母親を訪ねるのですが、
ここで出てきたのが、1992年版に登場したアン=マリー(女優さんも同じ方)!
ここで、気づく人は気づいたと思います。
その後、アンソニーは自分の出身が本当はカブリーニグリーンであったこと、そしてヘレンの都市伝説に出てくる子供が自分であったことを知らされます。
そして、ヘレンは本当はアンソニーをキャンディマンの儀式から守ってくれたことも母親から知らされるのです。
そう、本作の主人公は1992年版に登場したアンソニーという子供と同一人物だったのです。
母親は彼の出自について噓をつくことで都市伝説から遠ざけ、キャンディマンに狙われないように守ってくれていたんですね。
これ、1992年版を観ていたら激熱の展開ですよね!
私は、本作を観る前に1992年版を鑑賞していなかったので、家に帰ってからすぐにアマプラで借りました…。
いやー、これはちゃんと予習してから観るべきだったと深く後悔…。
3.「怒り」を忘れるなというメッセージ
本作では、キャンディマンの扱いが過去作とは少し異なります。
キャンディマンは特定の人物を指すのではなく、白人に迫害され差別されてきた黒人の「怒り」の事を指すという設定になっているのです。
本作で登場するキャンディマンはシャーマン・フィールズという男性。
彼は、カブリーニグリーンで子供に飴を配っていたのですが、同時期に飴に剃刀が混入する事件が多発。
彼はその犯人に疑われていました。
その為、警察は彼を見つけた途端、袋叩きにして殺害。
しかし、彼は本当は犯人ではなかったことが明らかになります。
この流れは、近年の「Black Lives Matter」を彷彿とさせますね。
1992年版に登場する初代キャンディマンも白人からの理不尽な暴力によって命を落としたダニエル・ロビタイルという男性でした。
(黒人奴隷の画家だったが、奴隷の身分で裕福な家の白人女性に恋をして相手との間に子供を作ってしまったことで、彼女の父の怒りを買い、酷い拷問の末に惨殺されてしまう。)
物語の終盤では、同様に無抵抗なアンソニーに対し、警察官が発砲したことによって彼は命を落としてしまいます。
そして、その時彼と一緒に居たブリアンナは警察から信じられない言葉をかけられます。
「君がするべき証言は1つ。アンソニーは警察官相手に暴れた、だから警察は正当防衛で彼を射殺し、君を保護した。もし、この証言をしないなら、君は彼の共犯ということで一生刑務所から出られなくなる。」と。
ここで、警察官の横暴さに絶望した彼女は、車のバックミラーを使いキャンディマンを呼び出してしまいます。
すると、死んだはずのアンソニーがキャンディマンとして復活し、警察官を次々と殺害していくのです。
このシーンではパトカーの窓ガラスに彼の姿が映るのですが、その姿はアンソニーではなくシャーマン・フィールズを含む様々な黒人男性の姿でした。
これは過去にキャンディマンとして存在していた人々で、白人によって理不尽に殺された黒人達が、キャンディマンとしてずっと復讐を続けていた事を表しています。
実際に、エンドロールでは様々な黒人が白人に迫害され、その結果キャンディマンへと変貌していく様子が、影絵を使って映し出されます(これがオシャレで素晴らしかった!)。
そして最後のシーンでは、キャンディマンの顔はアンソニーではなくダニエル・ロビタイル(トニー・トッド!)になっており、
「皆に伝えろ」
と言って映画は終わります。
このシーンは、黒人が差別され虐げられてきた歴史やその怒りを、より多くの人に知ってもらいたい、風化させてはいけないという製作側の意図を強く感じるものでした。
まとめ
いかがだったでしょうか?
本作は1992年版の続編としてはほぼ完璧なものになっており、更に黒人差別に対するメッセージも加わったことで過去作には無い重厚な作品となっています。
かなりぞわっ…とするような演出もありホラー映画としても優れていました。
過去作を観なくても楽しめるとは思いますが、1992年版は観ておくと、話の繋がりを感じることができてより本作に入り込めると思います。
映像や音楽もスタイリッシュで素晴らしいので、是非この機会に劇場でご覧ください!
それでは、読んでくださりありがとうございました!